約400年の歴史を誇る「南須釜念仏踊り」。子ども達の誇りのために続けたい
2024年3月27日
色鮮やかな着物をまとい、花笠を乗せた可憐な姿で念仏踊りを披露する子どもたち。福島県玉川村南須釜地区に伝わる「南須釜念仏踊り(みなみすがまねんぶつおどり)」は、江戸時代の寛永年間(1624年-1644年)から約400年続く歴史ある踊りです。毎年4月3日と8月14日に開催され、県の重要無形文化財と国の選択無形民俗文化財に指定されています。南須釜念仏踊り保存会の小原安春会長に、その歴史や伝承の取り組みを聞きました。
静かな集落が華やぐ年に2回の念仏踊り
阿武隈高地の緑豊かな山並みに囲まれた玉川村南須釜地区。普段は静かな山里ですが、年に2回、色彩にあふれたひときわ華やかな雰囲気に変わります。4月3日は、集落にある東福寺薬師堂の例大祭として東福寺の境内で踊りを奉納。8月14日は、東福寺の境内で踊った後、新盆の家を一軒ずつ巡り、供養の踊りを捧げます。4月は着物姿で、8月は浴衣姿で踊ります。
地区の集会所を訪ねると、念仏踊りの衣装に身を包んだ子どもたちがすでに準備を整えていました。その数24人。過疎化による担い手不足の影響を受け多くの地域で祭が姿を消すなか、ここにはたくさんの子どもたちが集まっています。
「でも、コロナの前までは5~6人しかいなかったんですよ。」
小原会長はそう振り返りながら、踊り手が増えたきっかけを教えてくれました。
「時代が変わって、南須釜にいる子どもだけではやっていけなくなってきました。南須釜の祭ではありますけど、次の時代に残すためには、もっと多くの子どもに参加してもらわなくてはなりません。そこで、今は玉川村全体の子どもに声をかけ、参加してもらうようにしています。」
参加するのは、幼稚園の年中から小学6年生まで。6年生は、中学校に上がる年の4月の踊りを最後に踊り手を卒業します。かつては男子も踊っていたそうですが、現在は女子のみが踊っています。
「幼稚園のお子さん達は、まだまだ踊るという感じではないですけどね。大人に習うことも大事ですけど、実際にお姉ちゃんたちが踊っている様子を間近で見て覚えていくことも大事だろうということで、早いうちから仲間に入ってもらっているんです。」
大正~昭和期の断絶を経て昭和27年に復活
400年の歴史を誇る南須釜念仏踊り。その発祥を小原会長はこう語ります。
「子どもたちが寺小屋でいろいろな学問を教わっていた江戸時代、この集落も、東福寺に子どもが集まって、お坊さんからお経やら何やらを教わっていました。でも子どもがお経を覚えるのは難しい。そこで、少しでも覚えやすいようにと、お経に節をつけて歌にして、踊りと一緒に子どもたちに教えた。それが始まりだといわれています。」
大正5年からの35年ほど、念仏踊りの伝統は一度途絶えました。第二次世界大戦など、いくつかの戦争の影響がそこにはあったといいます。戦争が終わり、南須釜にも再び平和な世の中がやってくると、あの華やかな念仏踊りを復活させようと、地域の人々が動き出しました。
「大野ケサさんという明治生まれのおばあちゃんが、子どもの頃にやっていた踊りを覚えていたんです。それを集落の人に教えて、昭和27年に再興されました。それからは、コロナ禍で中止した年もありましたが、70年以上続いています。」
現在は、12名いる役員が中心となり、次の世代への伝承に取り組んでいます。
指導者や衣装の確保にも奔走
練習は、月に1回、第3土曜日に定期的におこなっています。4月と8月の念仏踊りが近づくと、2週に1回程度に練習のペースを上げて当日に備えるそうです。
「指導に入ってくれているのは、かつて踊り子だった地域の人たちです。子どもが大きくなって手がかからなくなったような人に声をかけて手伝ってもらっています。結婚などで集落を出て行ってしまう人も多いので、子どもたちだけでなくて指導者を確保するのも一苦労。それもまた、玉川村全体に参加対象を広げた理由の一つです。」
今後の活動について、小原会長はこう語ります。
「これまでも、要請があれば東北の各地へ行ったり東京へ行ったりして踊りを披露してきました。これからも、披露する機会をいただいたときにはできる限り参加して、たくさんの人に知っていただきたいと思っています。また、そうすることで、素晴らしい伝統が地元にあるんだということを子どもたちが感じ、誇りに思えるようにしていきたいと思います」
最近では、踊り手の人数が増えた分、衣装の数を確保することが新たな課題になっているとか。現在の衣装や花笠は助成金などを活用して確保しましたが、伝統を繋いでいくためには、地域とのより深い関わりが欠かせません。その関わりを模索しながら、念仏踊りの伝承はこれからも続いていきます。
■南須釜念仏踊り
場所:東福寺(福島県石川郡玉川村南須釡久保宿70)
開催:毎年4月3日、8月14日
問い合わせ:南須釜念仏踊り保存会(代表:小原安春会長)
Tel.080-1821-9668
HP(玉川村観光物産協会):http://tamakawa-kanko.jp/watch/01.html
取材・文/髙橋晃浩